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弁護士・公認会計士 洪 勝吉
〒060-0042 北海道札幌市中央区大通西10丁目4 南大通ビル2F
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マンション投資を行うことで相続税の節税が行われることが多くあると言われています。
昨年は関係する最高裁判決が出され、マンション評価についての国税庁の取り扱いに変更があるとの報道もありますので、確認していきます。
【目次】(2023.6.30)
1.マンション投資による節税の仕組み
2.最高裁判決の内容
2.1 事実経過
2.2 判断の内容
3.見直しの方向性
4.今後注意が必要になる点
相続税は、相続税法上の相続財産(民法とは少し範囲が異なります)の総額から、債務や葬式費用などを差し引き、さらに基礎控除額をマイナスして算出した課税相続財産に税率を乗じるなどして算出されます。
相続税法22条は、原則として、相続等により取得した財産の価額は当該財産の取得の時における時価によるものと定めます。
ただ、預貯金や上場株式などについては「時価」を簡単に出す(額面や株式市場の株価)ことが可能ですが、土地や建物は時価の算定が容易ではありません。
そこで、国税庁は、マンションの評価については、国税庁内の通達(財産評価基本通達)で、建物部分については固定資産税評価額(1棟の建物全体の評価額を専有面積の割合によって按分)、土地部分については「敷地全体の面積×共有持分×平米単価(路線価など)」により算出し、これらを合算することとしています。
建物の固定資産税評価額は、同じ建物をもう一度作るといくらかかるかという費用を見積り、経年劣化を加味して算出しますが、一般的に建築価格の5割~8割程度と言われているようです。
土地の路線価については、公示価格の8割程度が目安とされています。路線価は、毎年1月1日を評価時点として1年間適用されるため、1年間の地価変動にも耐え得るものであることの必要性など評価上の安全性等が考慮されるためです。
時価を超える評価により相続税を課すことは、先ほどの相続税法22条に違反しますので、時価を超えることがないように、安全な評価額(相続税評価額)となるように通達に評価方法が定められているという理屈です。
さらに、特に高層マンションの場合は、他の不動産と比較しても、評価額が低くなる傾向があります。
マンションの市場価格には、建物の総階数や所在階、築年数などが反映されるものの、建物の固定資産税評価額の算定過程では、これらが考慮されなかったり、反映が不十分であるため、高層マンションの高層階に所在する物件の場合は、市場価格より割安になる程度が大きいと言われます。
敷地部分の評価額の要素となる路線価は、標準的な使用を前提とするため、高層マンション(高度利用)の評価よりも低額になる傾向があることや、高層マンションでは、一室あたりの敷地利用権の面積(共有持分)が少なくなるため、路線価の水準に表される立地条件が反映されづらくなります。
そのため、現金を1億円相続する場合には、この1億円に相続税がかかりますが、その1億円で高層マンションの高層階の物件を購入すると、評価額が3000万円程度になり、相続税の軽減につながるケースが出てくるのです。
実際、国税庁が示したデータによると、20階以上のマンションの場合、相続税評価額が市場価格の3分の1以下(市場価格が相続税評価額の3.16倍)となっています。
いままで見たようなマンション節税に関して、国税庁が、相続税評価額ではなく、鑑定評価額により相続税を課税したことの適否が問われたケースが最高裁令和4年4月19日判決です。
2009年、マンション2棟を約13.9億円(うち10億円を銀行から借入)で購入。
2012年、所有者が死亡。マンション2棟の相続税評価額を3.3億円と算定(通達評価額)。その他の資産が約7億円あったものの、銀行借入10億円をマイナスすることなどで課税相続財産はゼロ=相続税額ゼロ。
2013年、相続人がマンション1棟を約5億円で売却。
2016年、マンション2棟の評価額を約12.7億円(鑑定評価額)として更正処分。相続税額は約2.4億円。
相続税法22条については、時価を上回る評価額で課税するのでなければ、通達による相続税評価額を上回るものであっても相続税法22条に違反しないとしました。
国税局の通達は、行政機関内のものであり、国民に直接法的効力を有するものではないためです。固定資産税については、固定資産税評価基準による価格を上回る場合には違法になりますが、固定資産税評価基は地方税法という法律に基づいて定められている点が異なります。
次に、最高裁は、租税法上の一般原則としての平等原則として、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求すると指摘します。
そして、相続税に関しては、通達に従って画一的に評価がなされており、通達評価額を上回る評価額によって課税をすることは、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するとして、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」には合理的な理由に当たるとしました。
その上で、①一定の行為(マンション購入・銀行借入)がされた結果、客観的に租税負担が著しく軽減されること、②この行為が租税負担の軽減をも意図して行われたことの2点を指摘し、このような行為をしない他の納税者との間に看過し難い不均衡が生じ、実質的な租税負担の公平に反するから、平等原則に違反しない(鑑定評価額によって課税した税務署側の処分が適法である)と結論づけています。
上記の最高裁は税務署側の処分を適法としましたが、他方で、通達評価額(3.3億円)と鑑定評価額(12.7億円)との間には大きなかい離があるものの、大きなかい離があるというだけでは、「実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」には当たらないと判示しています。
これは、同じようなかい離は類似の不動産にも広く存在し得る以上、これを相続する潜在的な他の納税者と同じく通達評価額によったとしても租税負担の均衡が害されることはなく、問題となっている納税者だけ鑑定評価額で課税することはかえって不合理になるためです。
そして、このようなかい離は、本来的には通達の見直し等によって解消すべきと考えられます。
そこで、国税局では、有識者会議を設置し、通達の見直しを進めているところです。
現時点で明らかになっている情報によれば、不動産の中でも、マンションのみを見直しの対象として、一戸建て不動産と同程度の時価とのかい離率になるように、調整する方向のようです。
国税庁の資料によれば、20階建て以上のマンションの相続税評価額と時価との平均かい離率は3.16倍で、一戸建ての場合の平均かい離率は1.66倍とのことです。
仮に、20階建て以上のマンションのかい離率3.16倍を一戸建ての平均かい離率1.66倍に合わせるには、マンションの相続税評価額に1.9倍(=3.16倍÷1.66倍)を乗じる計算になります。
納税者としては、課税相続財産の金額が増額されますので、税負担が増えることになります。
例えば、相続税評価額5000万円のマンションについて、1.9倍を乗じると9500万円になります。法定相続人が一人だとすると、基礎控除額は3600万円です。
相続税評価額5000万円のままなら相続税額160万円[=(5000万円-3600万円)×15%-50万円]ですが、9500万円になると同1070万円[=(9500万円-3600万円)×30%-700万円]になります。
税率が高くなることもあいまって相当な増額です。
上記の最高裁判決が、通達評価額を上回る価額で課税をすることが平等原則に違反しない場合の判断は、マンションだけでなく、相続財産一般に通じるものと考えられます。
① 一定の行為がされた結果、客観的に租税負担が著しく軽減されることについては、どの程度の軽減を指すかは明示されておらず、軽減される相続税の額やその割合が総合的に考慮されると考えられます。
② ①の行為が租税負担の軽減をも意図して行われたことについては、不動産については、その購入時期、購入原資、利用状況等の事情を総合的に考慮して意図の存否が認定されるとの指摘があり、不動産以外の財産(例えば非上場株式)についても、様々な事情の総合考慮により意図の存否が認定されることになるでしょう。
なお、「租税負担の軽減『をも』意図して・・」と「をも」とされていますので、租税負担の軽減のみを意図したものでなくてもよいと読むことができるように思われます。
租税回避行為の否認ではないため、上記最高裁判決では、否認の根拠規定の有無やマンション購入・銀行借入れの経済的合理性等は問題とされていない点も注意が必要です。
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