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弁護士・公認会計士 洪 勝吉

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特別受益の評価、持戻し免除の意思表示の改正など

特別受益の評価の基準時は相続開始時とされています。「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみな(す)」(民法903条)としていますので、「贈与の価額」も相続開始時に評価すると考えられるためです。

最近の経済状況では、財産の価額が乱高下する事はあまりないかもしれませんが、財産の価額の変動が大きい場合には、大きな影響があります。
 

財産の評価に変動がある場合

例えば、相続人の一人が、被相続人の生前に不動産の贈与を受けたとして、贈与時の時価が2000万円、相続開始時の時価が1億円、遺産分割時の時価が5000万円だとすると、受けた特別受益の価額は1億円として、相続分を計算することになります。

遺産分割時の時価が5000万円に下落していた場合には、特別受益を受けた相続人には不利な結果になりますが、反対に相続開始時の時価が5000万円で、遺産分割時の時価が1億円だった場合には、5000万円の特別受益を受けたことになり、特別受益者に有利になりますので、一概に不利とは言えません。
バブル崩壊後の不動産の下落局面では、大きな影響があったところです。

 

金銭の場合

金銭の贈与を受けた場合には、貨幣価値の変動を考慮することになります。
具体的には、総務省統計局で開示される消費者物価指数を参考にします。物価の低いときと高いときでは、貨幣の額面が同じでも、実質的な価値が異なるためです。
例えば、2020年(物価指数100)に開始した相続について、1989年(物価指数86.9)に被相続人から1000万円の贈与を受けていた場合には、1000万÷86.9×100=約1150万円と評価します。

金銭以外の場合は、通常、貨幣価値の変動は考慮されません。先ほどの不動産の事例のように、相続開始までの時価の変動が考慮されます。

 

贈与から相続開始までに財産の滅失等がある場合

相続開始までに、特別受益者の行為によって、その目的である財産が滅失し、またはその価格の増減があったときでも、相続開始時に原状のままであったとみなして評価すると定められています(民法904条)。

先ほどの不動産の例(贈与時の時価が2000万円、相続開始時の時価が1億円、遺産分割時の時価が5000万円)で、相続開始前に5000万円で不動産を売却していたとしても、相続開始時に原状のままであったとみなすので、1億円と評価されることになります。

自然災害などの不可抗力で不動産が損傷した場合には、損傷後の状態での相続開始時の評価が特別受益の額になります。
代償金を得ていた場合には、利益を受けた範囲で特別受益と評価されることが多いでしょう。

 

持戻し免除の意思表示

前回見たとおり、特別受益の価額を加算してみなし相続財産を算定することを「特別受益の持戻し」と呼んでいます。
ただ、被相続人がこれと異なる意思を表示したときは、被相続人の意思に従うとされ(民法903条3項)、持戻しをする必要がなくなるため、特別受益者には有利です。
持戻しと異なる意思表示を、持戻免除の意思表示と呼びます。
持戻免除の意思表示は、書面によるものに限られず、口頭や黙示でも構いません。

黙示の持戻免除の意思表示が認められるのは、認めることに必要性や合理性がある場合です。
ひとつには受益を受けた相続人を優遇する合理的な理由がある場合が挙げられます。例えば、家業を承継する必要があるために、家業に必要不可欠な財産を贈与するといった事情があります。

ほかにも、特別受益に当たるかどうか微妙な場合、例えば、親族としての扶養義務の範囲内のものや、贈与に対する対価を実質的に支払っている場合、推定相続人全員に贈与している場合などに、黙示の持戻免除の意思表示を認めて解決する例があります。

なお、裁判例には、遺言による特別受益について、黙示の持戻免除の意思表示を認めるには、生前贈与の場合よりも、より明確な事情が必要であると判示する裁判例があります(大阪高裁平成25年7月26日決定)。

相続法の改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産を遺贈又は贈与した場合には、持戻免除の意思が推定される(民法903条4項)ことになりました。
注意点としては、同居までは要求されない、婚姻期間は贈与時点で算定する(遺贈の場合は遺言作成時点)、離婚・再婚した場合でも通算で20年以上であればよい、居住用財産を取得するための金銭は対象でない(贈与税の配偶者控除では対象)ことなどが挙げられます。
 

超過特別受益者の返還義務

遺贈や贈与の金額が、相続分の価値を超えるときは、特別受益者は、その相続において新たに財産を取得することができません(民法903条2項)が、超過分を返還する義務はありません。
遺留分を侵害する場合には、遺留分侵害額を支払う必要が生じます。
 

相続税法との違い

相続税法では、遺産は相続時点での評価、特別受益は受益時点での評価になります。
また、金銭の贈与は、額面で評価し、消費者物価などは考慮されません。

相続時精算課税制度を利用していない場合には、相続から遡って3年以内の贈与は遺産に加算されて相続税の対象になります。
民法では、生計の資本としての贈与などに限定されますが、期限による制限はありません。なお、遺留分の算定基礎になるのは、10年以内の贈与に限られています(民法1044条3項)。
ただし、先ほど出た贈与税の配偶者控除の対象となる贈与などは3年以内であっても相続税上の加算の対象になりません。なお、持戻し免除の推定規定に当たれば、民法上の特別受益の持戻しの対象にもなりません。

推定相続人以外への贈与については加算の対象にならないのは相続税と民法とで共通しますが、この推定相続人以外の人物が遺言によって財産を遺贈された場合には、その人物への3年以内の贈与が加算の相続税上は加算の対象になるなどの規定があるので注意が必要です。
孫への贈与についても、孫への遺贈や、孫が生命保険金の受取人である場合など、相続税上の加算の対象になることがあります。

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