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弁護士・公認会計士 洪 勝吉
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自筆証書遺言は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、押印しなければなりません(民法968条1項)。この方式に違反した場合には、原則として遺言としての効力が認められず、無効となります。
自筆証書遺言を封印、すなわち封筒に入れて糊付けした上で封じ目に押印して保管することまでは法律に規定されてはいません。
しかし、封印された状態で遺言書が発見されることは少なくありません。
封印された遺言書を見つけたときにはどうすればよいか見ていきます。
【目次】
1.法律の定め
2.検認手続とは
3.開封された遺言の効力
4.「絶対に」開封してはいけません
4.1 封印されたまま検認手続で開封されたケース(遺言有効事例)
4.2 開封した後に検認したケース(遺言無効事例)
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができないと定められています(民法1004条3項)。
自筆証書遺言の場合は、被相続人の死亡後に、家庭裁判所に提出して、遺言書の現状を保全するための手続である検認をしなければならないとされています(民法1004条1項)。そして、封印のある遺言書の開封については、実際にはこの検認手続の中で開封されることになります。
遺言書の保管者又は発見者から検認の申立てがあると、家庭裁判所は、検認の日時(検認期日)を指定して、申立人及び相続人等に通知します。
検認期日では、相続人等の立会いの上、遺言書の現状を確認し、遺言書を複写して遺言書検認調書を作成します。これにより、裁判所という公的な機関で、遺言書の状態が保全されます。
先ほども述べたように検認は、遺言書の現状を保全するために行われる手続であり、遺言書の有効性を確認するものではありません。そのため、検認手続自体は、相続人からすると「あっさり」と終わってしまうものです。
そして、遺言の内容に納得がいかない場合には、検認を経た自筆証書遺言であっても、遺言無効確認訴訟を提起し、この中で裁判所の判断を求めていきます。
それでは、被相続人が亡くなった後に、封印がされた遺言書が発見された場合にはどのようにすればよいでしょうか。
先ほども見たように、法律上は、家庭裁判所外で開封してはならないとされています。
ただ、検認手続は、遺言書の有効性を確認するものではありませんので、検認手続の前に開封されていたとしても、遺言の有効性には影響がないように思えますし、相続人としてはいち早く遺言の内容を確認したいと思うのが人情です(5万円以下の過料に処する旨が定められていますが、抑止力としては強くはないでしょう)。
しかし、封印された遺言書は「絶対に」開封しないでください。
私が検索したところ、多くのホームページで遺言書を開封しても遺言は無効にならないと解説されていました。これは教科書的な説明でしかありませんので、注意が必要です。
遺言者の印鑑で封印された遺言書があり、封印されたまま検認手続を行いました。
検認手続の中で遺言書が開封されたところ、遺言書には全文、日付及び氏名が自署されていたものの、押印がなされていませんでした。
押印がなされていないので、原則として遺言としての効力は認められません。
しかし、裁判所は、遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印(封印)をもって、自筆証書遺言としての押印として認められると判断し、遺言を有効としました(最高裁判所平成6年6月24日判決)。
この事例では検認手続の中で開封されていたため、封筒と、その中に入った遺言書の一体性が明らかであったと言えます。
それでは、検認手続の前に開封したところ、封筒には押印(封印)があったものの、封入されていた遺言書に押印が欠けていた場合には遺言としての効力は認められるでしょうか。
高等裁判所の判決の中には、封筒には遺言者の署名と封印がなされていたものの、遺言書自体には署名押印が欠けていたというケースで、検認の当時に封筒が既に開封されていたことを重要な根拠の一つとして、遺言書と封筒が一体のものとして作成されたものと認めることができないと判示し、遺言を無効としたものがあります(東京高裁平成18年10月25日判決)。
遺言書を勝手に開封しても無効にはならないとの解説は、封入されている遺言書に問題がないことが前提になっています。
しかし、開封する前に、封入された遺言書がどのような状態かは確認できません。
もしかしたら、押印が欠けているかもしれないのです。もしそうだとしたら、開封したことで遺言が無効になってしまうことになります。
封印された遺言書は、「絶対に」開封しないようにしましょう。
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