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弁護士・公認会計士 洪 勝吉
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自筆証書遺言の作成方法は民法968条に定められていますが、遺言がこの規定に反して無効であるか否か多くの裁判例で争われています。
今回は、どのような点で争いが生じてしまったのか見ていきます。
自筆証書遺言は、遺言書の全文、遺言の作成日付、遺言者氏名を、遺言者が自書し、押印して作成します。(1項)
ただし、遺言書につける財産目録は、自書でなく、パソコンを利用したり、不動産の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付する方法で作成することができます。この目録の全てのページに署名押印が必要です。(2項)
書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印します。(3項)
このように、自筆証書遺言については、①自書、②作成日付、③氏名、④押印、⑤財産目録の作成方法、⑥訂正方法が民法968条に定められています。
ただ、多くの裁判例で、定められた方法に反したかどうか争われていますので、それぞれについて裁判例の結果を見ていきましょう。(以降の○が有効、✕が無効です)。
自筆証書遺言に遺言の全文等の自書が求められるのは、遺言者の同一性及び真意を確保するためです。
✕Wordファイルなどを印刷した文書、録音データによる場合
○カーボン紙を用いて、複写の方法を用いた場合(最高裁平成5年10月19日判決)
△他人の添え手による補助を受けて作成した場合は、他人の意思が介入した形跡がない場合は、自書の要件を充たします(東京高裁平成5年9月14日判決)が、他人の意思が介入した場合には自書したものとは言えません(最高裁昭和62年10月8日判決)。
自筆証書遺言には、遺言が成立(完成)した日の日付を記載しなければならず(最高裁昭和52年4月19日判決)、暦上の特定の日を表示する必要があります。
○遺言書の全文・氏名・押印をした数日後に日付を記入して完成し、日付と遺言書の完成日が同一である場合(最高裁昭和52年4月19日判決)
○遺言者が、入院中の日に自筆証書による遺言の全文、同日の日付及び氏名を自書し、退院して9日後(全文等の自書日から27日後)に押印して遺言書が完成したため、遺言書の完成日と遺言書に記載した日付が異なる場合(最高裁令和3年1月18日判決)
✕遺言書の日付を、意図的に遡った日付で記入した場合(東京地裁平成28年3月30日判決)
○遺言書の日付に誤記があっても、誤記であること及び真実の作成日が遺言書の記載その他から容易に判明する場合(最高裁昭和52年11月21日判決)
✕遺言書の日付として「昭和四拾壱年七月『吉日』」と記載された場合(最高裁昭和54年5月31日判決)
氏名については、自らの名前を記載しますが、戸籍上の氏名である必要はありません。同一性が示されていればよく、日常使用されている通称、ペンネームなどでも適法になりえます。
○氏名の表示として生前に使用されていた通称名が記載された場合(大阪高裁昭和60年12月11日判決)
自筆証書遺言に押印が必要とされる理由は、遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識にあるとされています。
ただ、実印である必要まではなく、使用する印章に制限はありません。
✕押印の代わりに花押が書かれていた場合(最高裁平成28年6月3日判決)
○ホチキスで留められた二枚の書面からなる遺言書の署名下の押印はないが、契印がある場合(東京地裁平成28年3月25日判決)
○遺言書の署名下の押印はないが、遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印がある場合(最高裁平成6年6月24日判決)
✕遺言書の署名下の押印がなく、封筒には遺言者の署名押印があったものの、検認時にはすでに開封されていた場合(東京高裁平成18年10月25日判決)
○遺言書に指印がある場合(最高裁平成元年2月16日判決)
○遺言書の押印が、遺言者の指示に基づき相続人の一人が遺言者のいない場所でなされた場合(東京地裁昭和61年9月26日判決)
○外国人がした遺言について、押印がない場合(最高裁昭和49年12月24日判決)
改正法では、財産目録については、自書でなくてもよいとされましたが、代わりに各ページに署名押印が必要とされています。
○財産目録に署名押印がないが、財産目録を除外しても遺言の趣旨が十分に理解される場合(札幌地裁令和3年9月24日)
✕遺言の対象となる不動産目録がタイプ印刷されていたが、遺言書の本文と目録を対比することにより、はじめて相続人の一人に相続させるべき目的物を特定し得るもので、目録が遺言書中の最も重要な部分を構成するものである場合(東京高裁昭和59年3月22日。ただし法改正前)
民法には訂正の方法が定められていますが、異なる方法で訂正した場合には争いが生じます。
○遺言書の記載自体から明白な誤記の訂正がなされた場合(最高裁昭和56年12月18日)
遺言者の真意を実現するために、必要以上に遺言の方式を厳格に解するべきではないと考えられているため、最終的に有効とされたものも多くあります。
ただ、遺言の効力が裁判で争われること自体が相続人に多大な負担を生じさせることにもなります。
できる限り効力が争われる余地のない遺言書を作成するために、専門家の助力を得て作成されるようにしてください。
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