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弁護士・公認会計士 洪 勝吉

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遺産分割の進め方ー遺産分割の対象になるもの、ならないもの

前回は相続の対象となるもの、ならないものを見ました。
こんがらかるところなのですが、相続の対象となるものでも、遺産分割の対象にはならないものがあります。
以前にも確認しましたが、遺産分割の対象となる財産は、相続財産のうち、遺産分割時に存在する、分割されていない財産です。
今回は、どのようなものが遺産分割の対象になるのか確認していきます。

遺産分割の権利関係

相続が開始されると、相続財産のうち、可分債権以外はすべて相続人の共有(「遺産共有」と呼ばれます)となります。
このときの共有持分の割合は、法定(または指定)相続分です(民法899条)。
遺産共有は通常の共有と異なるものではありませんので、共同相続人が取得する遺産の共有持分権は、実体上の権利になります(最高裁判所平成17年10月11日決定)。
遺産共有と通常の共有の違いについては、通常の共有状態を分割する場合は共有物分割の手続によりますが、遺産共有の場合は遺産分割の手続によって行うという違いがあります。
 

可分債権が遺産分割の対象にならない理由

相続人が複数のときは、相続財産は相続人の共有になります(民法898条)。
先ほども述べたとおり、この共有関係は、通常の共有と基本的に異なりませんので、民法249条から264条が適用されます。
そして、債権は、所有権以外の財産権であるため、264条が適用されます。
264条は、基本的に共有の規定を準用するものの、法令に特別の定めがあるときは、この特別の定めが適用されるとしています。
そして、分割債権・分割債務については、民法427条が「数人の債権者又は債務者がある場合・・それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う」と定め、さらに、相続については民法899条が「相続分に応じて・・権利義務を承継する」と定めます。
これらの規定が特別の定めとして適用される結果、数量的に可分な債権債務は、遺産共有状態にはならず、法定(指定)相続分に応じて当然に分割され、「分割されていない財産」ではありませんので、遺産分割の対象になりません。
ただし、相続人全員が同意していれば、遺産分割の対象にできると理解されています。
可分債権の代表例としては、貸付金や損害賠償請求権、協同組合出資金などがあります。

 

金融資産は遺産分割の対象

金融資産については、不可分債権であり、原則として遺産分割の対象になります。
以前は、金融資産の性質によって、可分か不可分かが問題とされてきましたが、普通預金を可分債権とした最高裁判例が、近時の最高裁決定によって変更されました(最高裁平成28年12月19日決定)ので、今後は、原則として金融資産は遺産分割の対象になると考えられます。
そのため、普通預金・通常貯金・定期貯金(最高裁平成28年12月19日決定)、定期預金・定期積金(最高裁平成29年4月6日判決)、国債・株式(最高裁平成26年2月25日判決)など遺産分割の対象になります。
例外としては、協同組合出資金については、法定脱退後は出資金返還請求権という単純な金銭債権になりますので、可分債権になると考えられます。
投資信託については原則として遺産分割の対象になりますが、分割債権であることを認める投資信託もありますので、その場合は遺産分割の対象になりません。
 

相続時に存在しない財産

賃料債権

遺産共有状態の不動産から生じる賃料債権については、相続時に存在する財産ではありませんので、遺産分割の対象にはなりません。
共有持分(相続分)に応じて、各共同相続人が取得することになります。
のちに不動産が遺産分割されても、それまでの賃料債権の帰属に影響はありません(最高裁平成17年9月8日判決)。

代償財産

相続開始後に売却、滅失した財産は、遺産分割時に存在しないため、遺産分割の対象にはなりませんでした。
この場合、売却により生じる売買代金債権や、遺産の滅失により生じる保険金請求権、損害賠償請求権などは、相続財産の代わりに分割時に存在している財産(代償財産)ですが、同一性を有していないため、遺産分割の対象にはならないと理解されています。
そして、売買代金債権や保険金請求権、損害賠償請求権は可分債権ですので、相続人全員の同意がない限り、法定相続分で分割されていまいます。
そのため、遺産分割協議成立前に遺産である不動産を売却するときは、売却代金を遺産分割の対象に含めることを書面で合意しておくなどの手当てをするよう注意する必要があります。

ただ、民法の改正により、民法906条の2が新設され、処分した相続人以外の相続人の合意があれば、相続開始後に処分された財産を遺産として存在するものとみなすことができるようになりました。

 

相続前後に引き出された預貯金

被相続人の死亡前に引き出された預金については、相続時に存在しませんので、相続財産ではありません。
被相続人の意思に反して引き出されたと認められた場合には、不当利得返還請求権や不法行為による損害賠償請求権が発生しますが、これらは可分債権ですので、これまで見てきたとおり、遺産分割の対象にはなりません。
法定(指定)相続分で当然相続されますので、これを行使する場合には、遺産分割ではなく、通常の民事訴訟を提起することになります。

相続開始後に引き出された預金については、分割時に存在しないため遺産分割の対象になりません。
引き出した者に対する損害賠償請求権などについては、相続開始後になくなった財産ですので、上記の代償財産にとして遺産分割の対象にならず、可分債権であるため、相続分で分割されます。
ただし、先ほど見たみたとおり、改正民法906条の2により、引き出した相続人以外の相続人の合意があれば、分割時に存在するものとみなして遺産分割の対象とすることができると定められました。

 

相続債務についての留意点

金銭債務は、可分債務ですので、相続と同時に法定相続分に従って当然に分割されます。
相続債務については、遺言書で引受人を定めても、遺産分割協議で承継する相続人を相続人間で合意しても、債権者に対して効力が生じるわけではありません
そのため、遺産分割協議で債務の承継人を定める場合には、事前に債権者と協議する必要があります。
相続債務について、抵当権付きの相続不動産があるときに、相続不動産の承継者を定めても、相続債務の承継者に当然になるわけではありません。債権者に対しては相続人間の合意は効力が及ばないことには留意してください。
また、遺産分割について合意できないときに遺産分割審判に移行させ、審判手続きで決着をつける選択肢はありえますが、相続債務については、相続人全員の合意があっても、審判の対象にはなりません
裁判所は、相続債務の存在を考慮せずに審判を出すことになりますので、相続債務を含めた最終的な解決に至らないことにもなりかねないので、注意が必要です。

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